2016年12月7日水曜日

神奈川公演、演劇レポートアップしました!


物語が始まる前から、機械音が響く。
舞台上手の上にはいくつものプロジェクションが吊り下げられ、
舞台上には青白い光を放つ3台のオープンリールが並んでいる。



真ん中では赤い産業用ロボットが規則正しく、工業用の部品を組み立てている。
アームがスルスルと曲線を描き、まるで生き物のよう。
よく見ると、3人の人間が動かしており、中にはくるくると前転する者も。
これだけで、ドゥクフレ作品!とワクワクする人も多いだろう。

プロジェクションの画面には部品のアップや劇場の客席が映り、
これがロボットの視線であることが伝わってくる。

機械と人間、子供と大人、映像と身体表現、アナログとデジタル…。
ドゥクフレは対照的な要素を同時に盛り込み、
今までに見たことのない斬新な舞台を創り出した。

楳図かずおの原作漫画へのリスペクトなのか、時には漫画そのものを取り込み、
独創的な映像を活かし、生身の人間が演じ観客が受け取る、
舞台ならではの高揚感を届けてくれる。
斬新だが、観客を置いてきぼりにすることはない。
何らかのメッセージが手渡されるはずだ。



物語はまるで漫画のコマ割りのように、シーンごとに展開されてゆく。
冒頭から、東京タワーに登った真鈴(高畑充希)と悟(門脇麦)の
緊迫した光景。地上でパニックになる人々、互いの愛を確信する2人。
一点の曇りもない子供同士のまっすぐな純愛が、産業用ロボットに命を吹き込むという
奇跡を起こす。

町工場での真悟(成河)の誕生はまるで胎児が羊水の膜を突き破るような動きで、生々しさすら感じた。
自分は一体何者なのか?この物語はある意味、真悟が真鈴や悟を通して、
自分の存在理由を確かめる旅だといえるだろう。

ダンサーがロボットを動かし、成河は真悟の心を演じ、語る。
後半、真悟が壊れていくにつれ、この役割が変化していくのが興味深い。



あらゆる場面で身体表現がユニークな効果を発揮する。
特に病院と地下室のシーンでは真鈴が聞く機械音がダンサーたちで表され、
映像と連動して万華鏡のような広がりを見せる。これぞドゥクフレの真骨頂!
人の動きが細胞にも宇宙の塵にも見え、この物語の壮大さにも通じるようだ。

同時にこの世界観を強く後押しするのが音楽。
オープンリール録音機を楽器として効果的に使い、
ポップなアップテンポの曲から切なく美しいバラードまで、耳について離れない。




高畑は、子供から大人へと変身していく少女を感受性豊かに演じ切る。
響く歌声が胸を刺し、観る物を物語に引き込んでくれる。

門脇は何事にも一心な様子が魅力的で、男子として自然に成立しているのが素晴らしい。
成河は体が効き、説得力たっぷり。真悟がシカク、サンカク、マルに変身するシーンは圧巻だ。



小関は猟奇的な悪役を、大原櫻子はおませな女の子を、
どちらもイキイキと演じている。



子供の純粋性や人とコンピュータの関係など様々なテーマを孕み、
どこに視点を置くかで、何通りもの観方ができるのが面白い。
ラストシーンはこの舞台ならではで、胸をギュッと掴まれた。
遠い昔に失くした宝物に再び出会えたような。
いや、この作品自体が宝石そのものかもしれない。(文:三浦真紀)